題詠blog2012001:今連れ合ひの悪口はもう言はぬとの今の誓ひ時に忘れる 002:隣 隣よりうちの芝生を気にせよと子に言ひ孫に言ひ自分にも言ふ 003:散 街灯の照らしだされて真夜中の氷雨は白き光を散らす 004:果 疲れ果て眠りこみたるをさな児にやさしくあれよ春の夜の夢 005:点 離陸せしジェットが小さき点となり消えてゆくまで友を見送る 006:時代 時代には逆らへなくて買ひ換へる多機能誇るiPhoneへと 007:驚 驚きはこと過ぎし後襲ひ来ぬ 家をゆがめて地のゆれし午後 008:深 春浅く雪の残れる深大寺 人また人のだるま市立つ 009:程 程ほどの一生なりき 大過なく病気もせずに七十になる 010:カード 水仙を三本添へて届けたり旧き友へのお見舞ひカード 011:揃 前足をきちんと揃へ蹲るメランコリックな茶色の仔猫 012:眉 明けやらぬ西空高く淡あはと眉の形の白き三日月 013:逆 長靴の左右たがへて履きゐし児 父親となり娘を叱る 014:偉 偉かった友らそれぞれ退職し孫の話に目を細めたり 015:図書 図書室の窓より外を眺めゐき卒業式の前の日の友 016:力 筋力のつきはじめたる八歳と腕相撲して一勝二敗 017:従 従者とし我に仕へるパソコンが時に主のごとくふるまふ 018:希 「希望」さんと鬩ぎ合ひつつ「絶望」クン時にガガーンと凱歌を上げる 019:そっくり 晩年の母の<そつくりさん〉みたいショウウインドウに写る私は 020:劇 「劇中の役と思ひて切り抜けよ」我のピンチに友は言ひたり 021:示 「本日で閉店します」と掲示して町の豆腐屋明かりを消しぬ 022:突然 哀しみはいつも突然襲ひ来て時をかけつついつか薄らぐ 023:必 「熱心」は単に必要条件で歌を詠むには何かが足りぬ 024:玩 バネ入りの玩具のやうなリスの仔が細き身体で草野を撥ねる 025:触 風に触れ光に触れて輝けり レースのやうな藤の花房 026:シャワー 藤棚に白き藤房咲きさがりシャワーのやうに香りを降らす 027:損 熱中し損得抜きで働けり 若かりしかな、熱かりしかな 028:脂 体脂肪率測定てきる体重計買ひて三年あまり使はず 029:座 おかっぱで座敷わらしのやうなりき五歳の頃の末の娘は 030:敗 〈敗戦〉を〈終戦〉とよび日本は働きづめで這ひ上がりたり 031:大人 時かけて子供が大人になりてのち加速度つけて老人になる 032:詰 寿司めしを詰め込みすぎてポッテリす裕子の作るお稲荷さんは 033:滝 ナイアガラのホテルの浅き眠りには滝の轟く音が入りくる 034:聞 ふくろふのかすかな声が聞こえくる昼も昏きくぬぎ林に 035:むしろ 忠告を聞かぬもむしろ清々し この人と決め嫁ぎゆきたり 036:右 右脳の働き弱き我ならむ 理由がなければやりたくならぬ 037:牙 初めての質問に立つ議員なり牙を隠してソフトなタッチ 038:的 希望的観測ばかりを言ひたてて少し都合がよすぎるわ あなた 039:蹴 気遣へる母の言葉を一蹴し気軽に町を出てしまひたり 040:勉強 「勉強になります」と言ひ引き下がる 反論したきをぐつと押さへて 041:喫 新宿の音楽喫茶「風月堂」 わかるふりしてバッハを聞きゐき 042:稲 水張田に初夏の風吹き稲の苗はつかに影を乱して靡く 043:輝 七歳が目を輝かせ駆けてくる 買ったばかりの仔犬を連れて 044:ドライ 「まるで花のミイラのやう」と言ふ夫の視線の先にドライフラワー 045:罰 世の中が単純なりし時代には罪の裏には罰がありしも 046:犀 父母のゐし故郷の町の夕暮れに金木犀の香りただよふ 047:ふるさと ふるさとを捨てしにあらず やむを得ず離れて遠くカナダに住まふ 048:謎 不利なことを全て忘れる便利さがわが夫の持つ謎の能力 049:敷 風呂敷を纏へば正義の味方なり まだ四歳の〈アンパンマン〉も 050:活 生活の匂ひが少しずつ抜ける 家族が一人減りゆくたびに 052:世話 お互ひに立ち入らないのが都会風 世話好きバアチャン肩身が狭い 053:渋 快き渋さを舌の上に残しお薄一服いただき終へぬ 054:武 北面の削りとられし武甲山空に聳えて悲哀を纏ふ 055:きっと 「 初めてのウソだね、きっと」みどり児が横目で母を窺ひて泣く 056:晩 晩年の母の〈そっくりさん〉のやうショウウインドウに写る私は 057:紐 くつ紐を一人で結び駆けてゆく 初登校の一年生が 058:涙 歓びの涙のごとき一粒の露光らせて昼顔が咲く 059:貝 薄紅の貝殻一つ拾ひたり 海透き通る恩納海岸 060:プレゼント 神様のプレゼントだと言ひ聞かす運動会の朝の快晴 061:企 人生の企画書すべて反古にする 七十過ぎればもうあるがまま 062:軸 大地震も津波もうちに抑え込み地球の回転軸は崩れず 063:久しぶり 久しぶりに東の空に虹が立つ白き浮雲七色に染め 064:志 一日をまた一日をと生きるうち行方不明のわが志 065:酢 相性は良けれど決して溶け合はぬバルサミコ酢とオリーヴオイル 066:息 息白く見えゐし冬を想ひをり 今日の気温は三十四度 067:鎖 海風になびきて軽しエルメスの鎖模様の青いスカーフ 068:巨 中吊りの棚のやうなる「コ」の文字が居心地悪く巨の中に浮く 069:カレー 毎日のやうに食べゐき学食の三十五円のカレーライスを 070:芸 芸がないと思ひながらも朝食は毎日同じパン、ヨーグルト 071:籠 泣き顔の絵文字をつけて届きたり風邪に籠れる友のメールは 072:狭 海峡を吹きぬけてくる北風にポプラ並木がざはめきやまず 073:庫 今晩の空気を四角くパックして最終電車が車庫に入りゆく 074:無精 出無精になり来し我のハイヒール傷まぬままに十年が経つ 075:溶 哀しみは夕べの雲と溶け合ひてうすむらさきの空を漂ふ 076:桃 暖かく午後の陽のさす縁側のうたたねにあり我が桃源は 077:転 真東に日の昇り来る秋彼岸 自転・公転狂ふことなく 078:査 査定より少し低めに売り渡す 母の住みゐし小さきマンション 079:帯 緩やかな連体がよし 年経ても時に心の触れ合ふほどの 080:たわむれ たはむれの母の言葉を真に受けてをさなの大き目が潤みたり 081:秋 暮れやすき秋の夕べの高速路テールランプが赤くつらなる 082:苔 苔寺を塀の外から覗きたり 木陰に少し雪の残る日 083:邪 好かれたい気に入られたいは邪念だと妥協をしない一人(いちにん)の意地 084:西洋 西へ西へ船を進めしコロンブス大西洋を渡りきりたり 085:甲 甲高くサイレン鳴らし消防車グワーッと街を走りぬけたり 086:片 失くしたと諦めてゐしイヤリング片方だけとなりて出てくる 087:チャンス 訂正のチャンスを逃し妥協する 「は」よりも「が」の字がよかつたけれど 088:訂 改訂版が出ればまたすぐ買ひたくて同じ背文字の本が数冊 089:喪 喪材質や古さによりて異なれり 葬儀に集ふ喪服の黒が 090:舌 閻魔さまに舌を抜かれる夢を見き 母に「癌ではない」と言ひし日 091:締 締め切りがないとなかなか仕上がらず机の上に書類が溜る 092:童 よく読めばグリム童話の結末はシェイクスピアより悲劇なるべし 093:条件 無条件に愛することを覚えたり 幼き孫と付き合ふうちに 094:担 三家族集ひて祝ふ古稀の席 ワイン選びは夫の担当 095:樹 記念樹は合歓にしようと提案す 結婚式の祝いの席に 096:拭 物言はずゆつくり眼鏡拭ふ夫 まだ決心のつかぬ様子で 097:尾 尾をひきて霧笛がながく響きたり 黒き翳なす貨物船より 098:激 夜半すぎて激しさを増す雨音を聞きつつ友に詫び状を書く 099:趣 「趣」と言へる程度に掃き残す 木枯らしに散る銀杏落ち葉を 100:先 「ノーベル賞は研究員の総力」と山中先生謝辞を述べます |